Life Style Concierge の プライベート版
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ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891

Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


Queen Summer, or, The tourney of the lily & the rose (1891) by Walter Crane

ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891




ウォルター・クレイン 夏の女王、あるいは百合と薔薇の騎馬試合 1891


ウォルター・クレイン関連記事
古代英国庭園の幻想的な花々」(1899)
ウォルター・クレイン 眠れる森の美女 いばら姫(眠り姫)
ウォルター・クレイン シェイクスピアの花園」(1906)



/ 20:04 / 洋書 / - / - /
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」 1906

FLOWERS FROM SHAKESPEARES GARDEN by Walter Crane, Cassell & Company

ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


ヨーロッパではシェイクスピアの戯曲に登場する植物の庭園を「シェイクスピアの庭」と呼んでいます。特別な格別な英国庭園。1899年に、「古代英国庭園の幻想的な花々」を出版したウォルター・クレイン。こちらは「シェイクスピア」を連想させる作品も多くあります。

今日ご紹介の 「シェイクスピアの花園」は、1906年のオリジナルのもの。出版社や版、そして年代が違いますと、ずいぶんと違ってみえるものですね。

40ほどあるので、全部はご紹介できませんが、お好きなシェイクスピアの物語の花々を見つけてください。

ページ順になっていないものもあります。最初はデジカメにしたんですが、写りが気になって気になって気になって先に進めず・・・結局途中からスキャナにしちゃいました・・・。

Walter Crane, Flowers from Shakespeares Garden: A Posy from the Plays Illustrated in 40 Colour Plates by Walter Crane (London: Cassell, 1906)

リチャード三世 「四つの赤いバラ」 ハムレット 「オフィーリア」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


みなさん、ご存知の「オフィーリア」は19pに描かれて、ハムレットの花々が次のページにも続いています。シェイクスピアの戯曲から15作品をウォルター・クレインは「シェイクスピアの花園」 にまとめています。物語によっては何枚もイラストがあり、40くらいになります。そのうちの38枚をアップしました。

そしてシェイクスピアの詩にまつわる音楽も各戯曲別にご紹介いたします。


運命の花ざかり 「冬物語」 パーディタと花くらべ

大自然の祝福を人々と分け与える場面。ヒロインのパーディタは毛刈祭の女王となり、花々の名をあげる台詞は有名です。上田敏「海潮音」(訳詩集)から 〜花くらべ〜 ヰリアム・シェイクスピア(ウィリアム・シェイクスピア)、そしてウォルター・クレインが選んだシェイクスピアの「冬物語の花々」は、下記記事にてゆっくりご紹介いたします。

記事 運命の花ざかり 「冬物語」 パーディタの花くらべ

Flowers from Shakespeares Garden by Walter Crane

冬物物語 「プロセルピナの略奪」 と 「ラッパ水仙」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語 「ホットラヴェンダー」と「ミント」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


Flowers from Shakespeares garden

冬物語 「マジョラム、サボリー」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906

 

violets dim and Or Cythereas breadth

冬物語「ヴァイオレット(菫)」と「キュテレイアの息吹」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語「桜草」と「九輪草」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語 「瓔珞百合」と「百合の種類」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語「アイリス」と「この花々をあなたへ」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語「マリーゴールド」と「カーネーション」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


Sir, the year growing ancient,
Not yet on summer's death, nor on the birth
Of trembling winter, the fairest
flowers o' the season
Are our carnations and streak'd gillyvors,
Which some call nature's bastards: of that kind
Our rustic garden's barren; and I care not
To get slips of them.
The Winter's Tale (4.4)

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

(略)
Here's flowers for you;
Hot lavender, mints, savoury, marjoram;
The marigold, that goes to bed wi' the sun
And with him rises weeping: these are flowers
Of middle summer, and I think they are given
To men of middle age.
The Winter's Tale (4.4)

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

(略)
O Proserpina,
For the flowers now, that frighted thou let'st fall
From Dis's waggon! daffodils,
That come before the swallow dares, and take
The winds of March with beauty; violets dim,
But sweeter than the lids of Juno's eyes
Or Cytherea's breath; pale primroses
That die unmarried, ere they can behold
Bight Phoebus in his strength--a malady
Most incident to maids; bold oxlips and
The crown imperial; lilies of all kinds,
The flower-de-luce being one! O, these I lack,
To make you garlands of, and my sweet friend,
To strew him o'er and o'er!
The Winter's Tale (4.4)

上田敏さんはプロセルピナの花の部分は削除して、ラッパ水仙からの部分から訳詩していますね。

記事 運命の花ざかり 「冬物語」 パーディタの花くらべ

こちらの記事から、上田敏「海潮音」(訳詩集)から 〜花くらべ〜 ヰリアム・シェイクスピア(ウィリアム・シェイクスピア)もご紹介しております。

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

Lawn as white as driven snow;
Cyprus black as e'er was crow;
Gloves as sweet as damask roses.
The Winter's Tale (4.4)

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

シェイクスピアの名作の中で、特に「冬物語」では、花々を語る台詞が多いのが特徴です。第五幕で、小悪党のオートリカスの台詞にもこんな比喩が用いられています。

奴らが来た。この思惑に反して幸運を施すことになろうとは。まるで運命の花ざかりだ。

Here come those I have done good to against my will, and already appearing in the blossoms of their fortune.
The Winter's Tale (5.2)



•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥夏の夜の夢

詳しくはこちらの記事をごらんください。
記事 ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」 夏の夜の夢

だが私はキューピッドの矢が落ちた先をしっかりと見届けた。それは西方に咲く小さな花の上に落ち、それまでは乳白色の花が矢から受けた恋の傷で今では深紅の花に変わってしまった。乙女らはそれを徒なる花と呼んでいる。)

Yet mark'd I where the bolt of Cupid fell:
It fell upon a little western flower,
Before milk-white, now purple with love's wound,
And maidens call it love-in-idleness.
A Midsummer Night's Dream (2.1)

Walter Crane Shakespeares Garden Midsummer Nights

楡とアイビー


The female ivy so Enrings the barky fingers of the elm.
A Midsummer Night's Dream (4.2)

Shakespeares Garden by Walter Crane, With sweet musk roses. 1906

「ムスク・ローズ」(麝香薔薇)


立麝香草が咲く堤を知っている。そこには九輪草とが生い茂り、菫は風にうなずいている。甘い香りの忍冬や、香りの高い麝香薔薇、野茨(エグランタイン)が重なり合った甘美な天蓋の下で、夜のひとときタイターニアは眠るのだ。

I know a bank where the wild thyme blows,
Where oxlips and the nodding violet grows,
Quite over-canopied with luscious woodbine,
With sweet musk-roses and with eglantine:
There sleeps Titania sometime of the night,
Lull'd in these flowers with dances and delight.
A Midsummer Night's Dream (2.1)

妖精の女王タイターニアが、甘美な天蓋の下で眠るとき、フェリックス・メンデルスゾーン(Jakob Ludwig Felix Mendelssohn)は、そのララバイの詩「舌先裂けたまだら蛇」にも曲をつけました。

Flowers from Shakespeares garden

「ムスク・ローズ」(麝香薔薇)と「エグランタイン」(野茨)


舌先裂けたまだら蛇 (You spotted snakes)

You spotted snakes with double tongue,Thorny hedgehogs,be not seen;
Newts and blind-worms,do no wrong,Come not near our fairy queen.

Philomel,with melody Sing in our sweet lullaby;Lulla,lulla,lullaby,lulla,lulla,lullaby:Never harm,Nor spell nor charm,Come our lovely lady nigh;So,good night,with lullaby.

Weaving spiders,come not here;Hence,you long-legg'd spinners,hence!Beetles black,approach not near;Worm nor snail, do no offence.



「ワイルドタイム(立麝香草)」と「ウッドバイン(忍冬)」


ほかにはこんな台詞も。

そのように情欲を抑え、処女のまま清らかな巡礼をする者は、大いに祝福される。だが、俗世間では人に摘み取られることなく、ただ独りの生い立ち、生きて、枯れ死んでいく薔薇に比べたら、摘み取られて香水の香りを残す薔薇こそ幸せなのだ。

Thrice-blessed they that master so their blood,
To undergo such maiden pilgrimage;
But earthlier happy is the rose distill'd.
Than that which withering on the virgin thorn
Grows, lives and dies in single blessedness
A Midsummer Night's Dream (1.1)


 
•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥テンペスト

Ceres, most bounteous lady, thy rich leas

豊穣の女神ケレスの小麦、ライ麦、大麦


もっとも寛大な女神ケレス(セレス)
汝の豊かな小麦、ライ麦、大麦で覆われている

Ceres, most bounteous lady, thy rich leas
 Of wheat, rye, barley
The Tempest(4.1)

テンペストの劇中歌は多くありますが、「五尋の深い海底に」(Full Fathom Five)は、イゴール・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)をはじめ、 マーガレット・フービッキ (Margaret Hubicki)、マイケル・ナイマン(Michael Nyman)らが曲をつけています。

Full fathom five thy Father lies,
Of his bones are Corrall made:
Those are pearles that were his eies,
Nothing of him that doth fade,
But doth suffer a Sea-change
Into something rich and strange
Sea-Nymphs hourly ring his knell.
ding-dong,
Harke now I heare them,
ding-dong,bell.
ding-dong,bell.

五尋の深い海底に
ストラヴィンスキー「シェイクスピアの3つの歌曲」(1953)、
マイケル・ナイマン 映画音楽「プロスペローの本」(1991)
マーガレット・フービッキ メゾ・ソプラノとピアノのための「五尋の深い海底に」(2005)

あなたの父は五尋の海の底
骨はいまでは白珊瑚、
かつての瞳も白真珠、
その身はどこも朽ちはてず、
海の魔法で、
いまは貴いな宝となりました。
海の妖精、弔いの鐘をうち鳴らす
ディン・ドン
お聞きよ、ほら聞こえてくる
ディン・ドン・ベル
ディン・ドン・ベル



•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥ シンベリン•*¨*•.¸¸♥二人の貴公子

Hark! hark! the Lark!
Hark! hark! the lark at heaven’s gate sings,
And Phoebus begins arise.

聞け聞けひばり!
ひばりが天の門で歌ってる! 東の空に太陽神ポイボスは昇りはじめた。

シューベルトの「きけ、きけ、ひばり」は、シェイクスピアの「シンベリン」第二幕第三場からです。シェイクスピアの詩集を読んでいて突然にメロディーが浮かんだという即興でできあがった作品は、題名「セレナード」 D.889、シェイクスピアの原詩によるアウグスト・ヴィルヘルム・フォン・シュレーゲルの詩(1826年)です。シェークスピアによるのは1節目だけ。

花びらにおりた露の泉で馬に水を飲ませている。
金盞花の蕾も金色の目をあけ 美しいものと共に美しい姫よ、起き上がれ。

His steeds to water at those springs
On chaliced flowers that lies;
And winking Mary-buds begin
To ope their golden eyes:
With every thing that pretty is,
My lady sweet, arise.
Cymbeline (2.3)

Flowers from Shakespeares garden

シンベリン「釣り鐘草(ブルーベル)」
;二人の貴公子


ウォルター・クレインのイラストは「青い釣り鐘草」。

美しい花と共に夏の終わりを誠実に暮らす。
もっとも美しい花たちを、悲しい墓に飾ろう。
汝の顔のような淡い色の桜草、汝の静脈のような青い釣り鐘草で。

With fairest flowers
Whilst summer lasts and I live here, Fidele,
I'll sweeten thy sad grave: thou shalt not lack
The flower that's like thy face, pale primrose, nor
The azured harebell, like thy veins.
Cymbeline (4.2)

ロミオとジュリエットと同様に仮死状態のイモジェンを兄アーヴィラガスが嘆いた台詞です。

この仮死状態のイモジェンの葬送をジェラルド・フィンジ(Gerald Finzi)は作曲しています。シェイクスピア歌曲を含む曲集「花輪を捧げよう Op.18  Let Us Garlands Bring Op.18 」(1942年)は有名です。舞台音楽「恋の骨折り損 Love's Labour's Lost 」(1946年)、小管弦楽のための組曲「空騒ぎ」も作曲しています。

もはや灼熱の太陽も怖れるな
ジェラルド・フィンジ 「花輪を捧げよう Op.18」

Fear no more the heat o' the sun,
Nor the furious winter's rages;
Thou thy worldly task hast done,
Home art gone,and ta'en thy wages;
Golden lads and girls all must,
As chimney-sweepers,come to dust.

Fear no more the frown o' the great;
Thou art past the tyrant's stroke:
Care no more to clothe and eat;
To thee the reed is as the oak:
The sceptre,learning,physic,must
All follow this,and come to dust.

Fear no more the lightning-flash,
Nor the all-dreaded thunder-stone;
Fear not slander,censure rash;
Thou hast finished joy and moan;
All lovers young,all lovers must
Consign to thee,and come to dust.

No exorciser harm thee!
Nor no witchcraft charm thee!
Ghost unlaid forbear thee!
Nothing ill come near thee!
Quiet consummation have;
And renownéd be thy grave!

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥二人の貴公子

ご存知のように、チョーサーの「カンタベリー物語」の「騎士の話」がベースで、ジョン・フレッチャーとウィリアム・シェイクスピアの合作です。

ウォルター・クレインは”Larksheels trim”とだけ書いていますが。

物語は「結婚」を主題に、二人のいとこの貴公子パラモンとアーサイトと恋の相手エミーリアの3人を、ギリシャ神話のテーセウス、ヒポリタ(ヒッポリュテー)の第一幕第一場に歌われる祝婚歌から、祝婚と葬儀を暗示させていると思われますね。

Oxlips in their cradles growing,   
Marigolds on death-beds blowing,  
  Larks'-heels trim;

揺り籠で育つ九輪草
死の床で咲くマリーゴールド
芝には大飛燕草

この大飛燕草、神話の二人の英雄のアイアスが由縁です。

次の祝婚歌の10-13行目にあります。

ROSES, their sharp spines being gone,  
Not royal in their smells alone,  
  But in their hue;  
Maiden pinks, of odour faint,  
Daisies smell-less, yet most quaint,         
  And sweet thyme true;  
 
Primrose, firstborn child of Ver;  
Merry springtime's harbinger,  
  With her bells dim;  
Oxlips in their cradles growing,   
Marigolds on death-beds blowing,  
  Larks'-heels trim;  
 
All dear Nature's children sweet  
Lie 'fore bride and bridegroom's feet,  
  Blessing their sense!   
Not an angel of the air,  
Bird melodious or bird fair,  
  Be absent hence!  
 
The crow, the slanderous cuckoo, nor  
The boding raven, nor chough hoar,   
  Nor chattering pye,  
May on our bride-house perch or sing,  
Or with them any discord bring,  
  But from it fly!



 •*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥じゃじゃ馬ならし

Walter Crane, Parsley from The Taming of the Shrew.

パセリ


グズグズしていられませんよ、朝、うさぎの餌にと、庭にパセリを摘みにいった娘が、もうその日の午後には結婚してたなんてことがありますからね。

I cannot tarry: I knew a wench married in an afternoon
as she went to the garden for parsley to stuff a rabbit.
The Taming of the Shrew(4.4)




•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥恋の骨折り損

クリスマスに薔薇がほしいだなんて。5月の花祭りに霜が降ってほしいなんて思わないでしょう。

At Christmas I no more desire a rose
Than wish a snow in May's new-fangled mirth;
But like of each thing that in season grows.
Love's Labours Lost (1.1)

Allons! allons! Sowd cockle reapd no corn


さぁ、行こう!撫子の種を撒いても小麦は穫れぬ。因果はめぐり終いに正しい裁きが降りるもの。誓約破りの男には娼婦がお似合いだ。つまりは卑しい銅貨で尊い宝は手に入らないということなんだ。

Allons! allons! Sow'd cockle reap'd no corn;
And justice always whirls in equal measure:
Light wenches may prove plagues to men forsworn;
If so, our copper buys no better treasure
Love's Labours Lost (5.2)

まだらの雛菊、青い菫
黄色味がかった金鳳花、銀色の花種漬花が
野原を祝福で彩るとき

When daisies pied and violets blue
And lady-smocks all silver-white
And cuckoo-buds of yellow hue
Do paint the meadows with delight,
Love's Labours Lost (5.2)

イラストの詩は劇中歌の一部。冬の歌を歌う梟と、春の歌を歌う郭公。その歌の「春」(Spring)は、イゴール・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)が曲をつけましたね。「シェイクスピアの3つの歌曲 Three Songs from William Shakespeare」(1953作/1954初演)のひとつです。

シェイクスピアの3つの歌曲の第1曲はソネットの第8番から「快い調べのような君が(Musick to heare)」、第2曲はテンペストの「汝の父は、五尋の深い海底に(Full fathom five)」、第3曲が恋の骨折り損から「春(まだらなヒナギク)(Spring - When dasies pied)」です。

「春」
ストラヴィンスキー 「シェイクスピアの3つの歌曲」(1953作/1954初演)

When daisies pied and violets blue
And cuckoo-buds of yellow hue,
And lady-smocks all silver white,
Do paint the meadows with delight,
The cuckoo,then on ev'ry tree
Mocks married men,for thus sings he,
Cuckoo,Cuckoo,cuckoo:
O word of fear,
Unpleasing to a married ear.

When shepherds pipe on oaten straws,
And merry larks are ploughmen's clocks,
When turtles tread,and rooks,and daws,
And maidens bleach their summer smocks,
The cuckoo,then on ev'ry tree
Mocks married men,for thus sings he,
Cuckoo,Cuckoo,cuckoo:
O word of fear,
Unpleasing to a married ear



•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥ハムレット

くわしくはこちら
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  ハムレット


A violet in the youth of primy nature,
Forward, not permanent, sweet, not lasting,
The perfume and suppliance of a minute.
Hamlet (1.3)

Theres rosemary, thats for remembrance; pray,love, remember: and there is pansies. that's for thoughts.

ハムレット 「ローズマリー」と「パンジー」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


There's rosemary, that's for remembrance; pray,
love, remember: and there is pansies. that's for thoughts.
Hamlet (4.5)



ハムレット フェンネル(茴香)とコロンバイン(苧環)
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906

 



ハムレット「ルー(ヘンルーダー,芸香)」と「デイジー(雛菊)」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


There's fennel for you, and columbines: there's rue
for you; and here's some for me: we may call it
herb-grace o' Sundays: O you must wear your rue with
a difference. There's a daisy: I would give you
some violets, but they withered all when my father
died: they say he made a good end,--
Hamlet (4.5)

邦訳とチャイコフスキーの「ハムレット」をご用意した”ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  ハムレット”からご覧ください。



•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥リチャード三世


Walter Crane, Four red roses from Richard III

「四つの赤いバラ」


2人の唇は一本の茎に咲く四つの赤いバラの花。初夏の光の中で美しく咲き誇り接吻をしていた。

Their lips were four red roses on a stalk,
Which in their summer beauty kiss'd each other.
 RICHARD III(4.3)

「第1・四部作」といわれるのが、このリチャード三世とヘンリー六世三部作。

薔薇戦争の最後を飾る赤薔薇のイングランド王リチャード三世(1452ー1485)は、シェイクスピア(1564-1616)の時代では、彼を破ったヘンリー七世のテューダー朝時代はエリザベス一世(1533-1603)まで受け継がれた黄金時代。

シェイクスピアはエリザベス一世の治世時代でしたので、リチャード三世はシェイクスピアの史劇の中では、怪奇な醜い容貌と狡猾で残忍な詭弁家として書かれています。

テューダー家の紋章は、ランカスター家の赤薔薇とヨーク家の白薔薇を合わせた形になっています。赤薔薇の中に白薔薇が抱かれているような紋章です。

ヘンリー七世は白薔薇の王女エリザベス・オブ・ヨークと結婚をしたのでした。




•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥ヘンリー四世•*¨*•お気に召すまま



ヘンリー四世「ブラックベリー」 お気に召すまま「柊」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


'Tis dangerous to take a cold, to sleep, to
drink; but I tell you, my lord fool, out of this
nettle, danger, we pluck this flower, safety.
1 Henry IV (2.3)

そのわけはブラックベリーの数ほどある。だが無理強いじゃ、理由なぞひとつだって言うものか。

If reasons were as plentiful as blackberries, I would give no man a reason upon compulsion, I.
1 Henry IV (2.4)

このヘンリー四世の「ブラックベリー」が登場する台詞、サー・ジョン・フォルスタッフですね。女王エリザベス一世がファンで、サー・ジョン・フォルスタッフの恋物語を頼んで「ウィンザーの陽気な女房たち」の騎士フォルスタッフが出来上がったとういうお話もあるようです。サー・ジョン・フォルスタッフはシェイクスピアの劇中人物を超えて、他の作家の別の戯曲に登場するなど人気者です。

「星の数ほど」というのはよく聞きますが、「ブラックベリーの数ほど」とは。

さて、シェイクスピアの「ヘンリー四世第二部」の第二幕第四場に、女王エリザベス一世がファンで、サー・ジョン・フォルスタッフとその仲間のピストルが登場します。このピストルの名台詞。実はエリザベス一世の生母、アン・ブーリンが処刑の日に詩を残したといわれる「おお死よ、われを眠りに」であり、作曲されています。

「おお死よ、われを眠りに」でアン・ブーリンの詩に言及しているシェイクスピア。

記事 アン・ブーリン ”おお死よ、われを眠りに” シェイクスピア ”おお死よ、われを眠りに”

こちらではケイティ・ローズ(Katy Rose)が歌う「おお死よ、われを眠りに」にリンクしています。

•*¨*•
お気に召すまま

ヘイ・ホー、歌えよ  ヘイ・ホー、柊に歌え

”Heigh-ho, sing heigh-ho, unto the green holly”
As You Like It (2.7)

トマス・ロッジ作「ロザリンド」が原作。これは劇中歌。廷臣アミアンズが歌います。

このアミアンズの歌は、ロジャー・クィルター(Roger Quilter)が、3つのシェイクスピア歌曲 Three Shakespeare Songs(1905年)Op.6のなかの第3曲「吹けよ、吹け、冬の風 Blow, Blow, Thy Winter Wind」にあたります。

Blow, blow thou winter wind 1892 (Auckland Art Gallery Toi o Tamaki), John Everett Millais

ジョン・エヴァレット・ミレイ 「吹けよ吹け冬の風」 
シェイクスピア お気に召すまま より 1892 


ジョン・エヴァレット・ミレイも「吹けよ吹け 冬の風」を作品にしています。

「吹けよ吹け 冬の風」(お気に召すまま)
ロジャー・クィルター「3つのシェイクスピア歌曲 Op.6」(1905)

Blow,blow thou winter wind,
Thou art not so unkind
As man's ingratitude;
Thy tooth is not so keen
Because thou art not seen,
Although thy breath be rude.
Heigh ho! sing heigh ho! unto the green holly:
Most friendship is feigning,most loving mere folly:
Then,heigh ho! the holly!
This life is most jolly.

Freeze,freeze thou bitter sky,
Thou dost not bite so nigh
As benefits forgot:
Though thou the waters warp,
Thy sting is not so sharp
As friend remember'd not.
Heigh ho! sing heigh ho! unto the green holly:
Most friendship is feigning,most loving mere folly:
Then,heigh ho! the holly!
This life is most jolly.

ジェラルド・フィンジ(Gerald Finzi)、トーマス・モーリー(Thomas Morley)は、劇中歌「若者と恋人」(It was a lover and his lass)を作曲しています。

「それは恋人たち(若者と恋人)」(お気に召すまま)
ジェラルド・フィンジ「3つのシェイクスピア歌曲 Op.6」(1905)
グローブ座の音楽家 トーマス・モーリー エア(リュート歌曲)第一集(1600)

It was a lover and his lass,
With a hey, and a ho, and a hey nonino
That o'er the green cornfields did pass.
In spring time, the only pretty ring time,
When birds do sing, hey ding a ding a ding;
Sweet lovers love the spring.

Between the acres of the rye,
With a hey, and a ho, and a hey nonino,
These pretty country folks would lie,
In spring time, the only pretty ring time,
When birds do sing, hey ding a ding a ding;
Sweet lovers love the spring.

This carol they began that hour,
With a hey, and a ho, and a hey nonino,
How that a life was but a flower
In spring time, the only pretty ring time,
When birds do sing, hey ding a ding a ding;
Sweet lovers love the spring.

Then, pretty lovers, take the time
With a h ey, and a ho, and a hey nonino,
For love is crowned with the prime
In spring time, the only pretty ring time,
When birds do sing, hey ding a ding a ding;
Sweet lovers love the spring.



•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥空騒ぎ

Much Ado About Nothing

空騒ぎ「大薊」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


”大薊、それを胸にとめなければならないわ ―
”なぜ ベネディック(ベネディクトゥス)、ベネディックのいくつかの教訓をあなたに。
”教訓!いいえ、誓っていいわ。私には教訓の意味は必要ないの。さっきの意味よ。明らかに神聖なる薊なの。
"Get you some of this distilled Carduus Benedictus,  and lay it to your heart ―
" Why benedictus? You have some moral in this. benedictus
"Moral! No, by my troth, I have no moral meaning. I meant. plain holy thistle
Much Ado About Nothing(3.4)

and lay it to your heart ― それを心にとめなければならない
このフレーズ、旧約聖書・申命記第4章にあります「それ故、あなたは、きょう知って、心にとめなければならない。上は天、下は地において、主こそ神にいまし、ほかに神のないことを。」

ここでは「胸にとめなければ(置かなければ)ならないの」となります。

恋煩いで胸がむかつくベアトリス。ヒーローとその侍女マーガレットがベアトリスをからかっている場面。マーガレットは「大薊」はむかつきの妙薬で、胸にあてると良いと言っているのです。ここでの胸のむかつきは「つわり」の揶揄です。

そしてヒーローは、”ベアトリスを薊の棘で刺すつもりね。”(There thou prick’st her with a thistle)とマーガレットの薊に返します。

そして、「なぜベネディック、ベネディックのいくつかの教訓をあなたに。」と言うと、マーガレットが「教訓!いいえ、誓っていいわ。私には教訓の意味は必要ないの。さっきの意味よ。明らかに神聖なる薊なの。」

カルドゥス・ベネディクトゥスは大薊のことで、神聖なる薊の意を含んでいますが、空騒ぎのベネディックはベネディクトゥスとも読みます。そしてホーリーシスルは神聖なる薊で、言葉遊びの3人の台詞が面白いんですね。

エリック・コーツ(Erick Coates) の作曲した「溜息なさるな。淑女の方々」(Sigh no more, ladies, sigh no more)は、第2幕第3場。

「溜息なさるな。淑女の方々」(空騒ぎ)
エリック・コーツ 4つの古いイギリスの詩(4 Old English Songs 1909)

Sigh no more, ladies, sigh no more,
Men were deceivers ever;
One foot in sea and one on shore;
To one thing constant never.
Then sigh not so,
But let them go,
And be you blithe and bonny;
Converting all your sounds of woe
Into Hey nonny, nonny.

Sing no more ditties, sing no more,
Of dumps so dull and heavy;
The fraud of men was ever so
Since summer first was leavy.
Then sigh not so,
But let them go,
And be you blithe and bonny;
Converting all your sounds of woe
Into Hey nonny, nonny.

ヘイ、ノニー、ノニーというフレーズはオフィーリアが狂気で歌った~♪ ヘイ、ノン・ノニー♪〜と同じ囃子ことばですね。



•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥ヘンリー五世 and ヘンリー六世

王だとて、私と同じ人間にすぎない。菫の匂いも等しく香り、大空も同じように見えるだろう。

I think the king is but a man, as I am:
the violet smells to him as it doth to me:
the element shows to him as it doth to me.
Henry V (4.1)

イチゴはイラクサの下で育つもの。
良い実こそ下等な実の隣で育てば、
その実は繁栄し、成熟した果実になるものです。

The strawberry grows underneath the nettle
And wholesome berries thrive and ripen best
Neighbour'd by fruit of baser quality
Henry V (1.1)



ヘンリー五世 「イチゴとイラクサ」 ヘンリー六世 「サンザシ」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


サンザシの甘い木陰で 拙い羊たちを見守る羊飼い
豪奢な刺繍の天蓋で 謀反を恐れる王よりも心地よいものなのでは?

Gives not the hawthorn-bush a sweeter shade
To shepherds looking on their silly sheep,
Than doth a rich embroider'd canopy
To kings that fear their subjects' treachery?
3 Henry VI (2.5)

ヘンリー五世(1387-1422)はヘンリー四世の息子です。ランカスター朝の黄金期を築いたヘンリー五世。その息子がヘンリー六世(1421-1471)。ランカスター家の崩壊がはじまり薔薇戦争がはじまります。この次のイングランド王がヨーク家のエドワード4世(1442-1484)。その息子エドワード5世は12歳で継承しましたが、の絵画作品からもご存知のように弟のヨーク公リチャードとともにロンドン塔に幽閉され暗殺されたとなっていますが、消息は不明です。

このあとリチャード三世、ヘンリー七世と王位を継承していくのですが、現在ではエドワード5世と弟リチャードの運命にかかわったのはヘンリー七世とされています。



•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥トロイラスとクレシダ

くわしくはこちらの記事をごらんください。
記事 シェイクスピアとチョーサー トロイラスとクレシダ•.¸¸♥ トロイルスとクリセイデ•*¨*


Walter Crane, Laurel from Troilus and Cressida.

トロイラスとクレシダ 月桂樹


ユリシーズ(オデュッセウス)の台詞はものすごく長く、63行もある33行目に月桂樹がでてきます。

長老の特権、王冠、王笏、月桂樹だの、それらの物の特権にもせよ、位階がなければどうして正式の地位を保つことができようか。

Prerogative of age, crowns, sceptres, laurels,
But by degree, stand in authentic place?
Troilus and Cressida(1・3)

ここでも「冬物語」の台詞「花ざかり」同様に、邦訳では「花」言葉が台詞で登場しますが。

女は、執心されているうちが花。
Women are angels, wooing:

では、こういうのはいかがでしょう。

女が御使いであるうちは、深く思いをかけられる。
誘いに堕ちれば、思いは一瞬で醒めるもの。
愛はそういうものだと知らないうちは世間知らず。
男は、たやすく手に入れたときこそ勝利。
あの欲望を果たすときの甘い愛の囁き。
愛を支配するなら、口説かれながら思いのままにあやつること。

花で譬えたなら
「女は、言い寄られているうちが花。手に落ちればそれでお終い。甘い言葉は蜜の味。喜びは口説かれながらあやつること。」

こんな感じでしょうか。

Women are angels, wooing:
Things won are done; joy's soul lies in the doing.
That she beloved knows nought that knows not this:
Men prize the thing ungain'd more than it is:
That she was never yet that ever knew
Love got so sweet as when desire did sue.
Therefore this maxim out of love I teach:
Achievement is command; ungain'd, beseech
Troilus and Cressida(1・2)

トロイア戦争は二人の女性が交換されています。シェイクスピアではヘレネーはヘレンのこと。

ヘレネーもクレシダも夫や恋人がいる身で、奪われた国で別な恋人と暮らします。「トロイラスとクレシダ」では、二人の女性は娼婦同然として扱われているようです。

トロイラスとクレシダ」は、ジェフリー・チョーサーの「トロイルスとクリセイデ(Troilus and Criseyde)」も有名です。ラファエル前派のエドワード・バーン=ジョーンズは、ジェフリー・チョーサーの「トロイルスとクリセイデ」の挿絵を描いてます。




Flowers from Shakespeares garden


シェイクスピアの劇中歌の音楽は下記から聴くことができます。

Shakespeare and Love - Music Of The Plays
カメラータ・オブ・ロンドン

It Was a Lover and His Lass (As You Like It)
Heart's Ease (Romeo and Juliet)
Come Live With Me (Merry Wives of)
O Mistress Mine (Twelfth Night)
Fortune My Foe (Merry Wives Of Windsor)
The Willow Song (Othello)
Galliard: Battle Galliard (Twelfth Night)
Farewell Dear Love (Twelfth Night)
Take O Take Those Lips Away (Measure Foe Measure)
Where Griping Grief (Romeo and Juliet)
Battaglia (Henry V)
How Should I Your True Love Know (Hamlet)
Tomorrow Is St. Valentine's Day (Hamlet)
Walsingham (Hamlet)
Lawne As White As Driven Snow (The Winter's Tale)
O Death Rock Me Asleep (Henry IV)
Last Will And Testament (Cymbeline)
Hark, Hark The Lark (Cymbeline)
Full Fathom Five (The Tempest)
Where The Bee Sucks (The Tempest)



ほかにはこんなところにも花が溢れています。

To guard a title that was rich before,
To gild refined gold, to paint the lily,
To throw a perfume on the violet,
To smooth the ice, or add another hue
Unto the rainbow, or with taper-light
To seek the beauteous eye of heaven to garnish,
Is wasteful and ridiculous excess.
King John (4.2)

Like the lily,
That once was mistress of the field and flourish'd,
I'll hang my head and perish.
1 Henry VIII (3.1)

He was met even now
As mad as the vex'd sea; singing aloud;
Crown'd with rank fumiter and furrow-weeds,
With bur-docks, hemlock, nettles, cuckoo-flowers,
Darnel, and all the idle weeds that grow
In our sustaining corn.
King Lear (4.4.)

What's in a name? that which we call a rose
By any other name would smell as sweet.
Romeo and Juliet (2.2)

What, no more ceremony? See, my women!
Against the blown rose may they stop their nose
That kneel'd unto the buds.
Antony and Cleopatra (3.13)

Not poppy, nor mandragora,
Nor all the drowsy syrups of the world,
Shall ever medicine thee to that sweet sleep
Which thou owedst yesterday.
Othello (3.3)

The tempter or the tempted, who sins most?
Ha!
Not she: nor doth she tempt: but it is I
That, lying by the violet in the sun,
Do as the carrion does, not as the flower,
Corrupt with virtuous season.
Measure for Measure (2.2)

/ 20:27 / 洋書 / - / - /
シェイクスピアとチョーサー トロイラスとクレシダ•.¸¸♥ トロイルスとクリセイデ•*¨*


•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥トロイラスとクレシダ

Walter Crane, Laurel from Troilus and Cressida.

トロイラスとクレシダ 月桂樹
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




ユリシーズ(オデュッセウス)の台詞はものすごく長く、63行もある33行目に月桂樹がでてきます。

長老の特権、王冠、王笏、月桂樹だの、それらの物の特権にもせよ、位階がなければどうして正式の地位を保つことができようか。

Prerogative of age, crowns, sceptres, laurels,
But by degree, stand in authentic place?
Troilus and Cressida(1・3)

ここでも「冬物語」の台詞「花ざかり」同様に、邦訳では「花」言葉が台詞で登場しますが。

女は、執心されているうちが花。
Women are angels, wooing:

では、こういうのはいかがでしょう。

女が御使いであるうちは、深く思いをかけられる。
誘いに堕ちれば、思いは一瞬で醒めるもの。
愛はそういうものだと知らないうちは世間知らず。
男は、たやすく手に入れたときこそ勝利。
あの欲望を果たすときの甘い愛の囁き。
愛を支配するなら、口説かれながら思いのままにあやつること。

花で譬えたなら
「女は、言い寄られているうちが花。手に落ちればそれでお終い。甘い言葉は蜜の味。喜びは口説かれながらあやつること。」

こんな感じでしょうか。

Women are angels, wooing:
Things won are done; joy's soul lies in the doing.
That she beloved knows nought that knows not this:
Men prize the thing ungain'd more than it is:
That she was never yet that ever knew
Love got so sweet as when desire did sue.
Therefore this maxim out of love I teach:
Achievement is command; ungain'd, beseech
Troilus and Cressida(1・2)



Sir Edward Burne-Jones

ジェフリー・チョーサーの「トロイルスとクリセイデ」(トロイラスとクレシダ)
挿絵 エドワード・バーン=ジョーンズ




トロイア戦争は二人の女性が交換されています。トロイのトロイラスの弟パリスは、「パリスの審判」で、ヴィーナス(アプロディーテー)に黄金の林檎を渡し、ギリシャ側のヘレネーの略奪に成功。兄のトロイラスはクレシダをギリシャ側に奪われます。シェイクスピアではヘレネーはヘレンのこと。

ヘレネーもクレシダも夫や恋人がいる身で、奪われた国で別な恋人と暮らします。「トロイラスとクレシダ」では、二人の女性は娼婦同然として扱われているようです。

シェイクスピアの「トロイラスとクレシダ」は、チョーサーの「トロイルスとクリセイデ」に比べると、文学的にはどちらも素晴らしいのでしょうが、淫猥な言葉で終わるシェイクスピアよりも、トロイルスの魂が第七天から見下ろすチョーサーの作品が好きです。

トロイラスとクレシダ」は、ジェフリー・チョーサーの「トロイルスとクリセイデ(Troilus and Criseyde)」も有名です。ラファエル前派のエドワード・バーン=ジョーンズは、ジェフリー・チョーサーの「トロイルスとクリセイデ」の挿絵を描いてます。

絵画の題材としては、ヘレネーとパリスの方が圧倒的に多いですよね。

記事 ルーカス・クラナッハ 七つの「パリスの審判」
記事 パリスの審判 三女神黄金の林檎を争うこと
記事 ギュスターヴ・モロー トロイのヘレネー
記事 アエネーイスから アイネイアースと母ヴィーナス

ジェフリー・チョーサーの「トロイルスとクリセイデ」は、クピドの愛の矢があたったトロイルスがクリセイデに恋をします。こちらの物語も花々が登場します。

Next the foule netle, rough and thikke,The rose waxeth swoote and smothe and softe;

「刺草の群れがぼうぼうと生い茂るとなりに、薔薇が柔かに美しく咲き出すことがある。」

そして、いよいよ二人が初めて結ばれるその時のクリセイデは楊に例えられています。

Right as an aspes leef she gan to quake.(Tr 3 1200)

「白楊の葉のごとくその身が揺れた。」

As aboute a tree, with many a twiste, Bytrent and writh the swote wodebynde, Gan ech of hem in armes other wynde. (Tr 3 1230-1231)

チョーサーがトロイルスとクリセイデの抱擁を「美しい忍冬が蔦の蔓で木にしっかりと巻きつくように、二人の両腕は互いの身体をからめあいました。」とあります。

シェイクスピアの「夏の夜の夢」で、タイターニアが楡の木に蔦が蔓で固く抱きしめていると囁くところがありますが、まさに男女の抱擁の場面を蔓と樹木にたとえているのですね。

記事 ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」 夏の夜の夢



/ 20:00 / 洋書 / - / - /
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」 夏の夜の夢

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥夏の夜の夢

だが私はキューピッドの矢が落ちた先をしっかりと見届けた。それは西方に咲く小さな花の上に落ち、それまでは乳白色の花が矢から受けた恋の傷で今では深紅の花に変わってしまった。乙女らはそれを徒なる花と呼んでいる。)

Yet mark'd I where the bolt of Cupid fell:
It fell upon a little western flower,
Before milk-white, now purple with love's wound,
And maidens call it love-in-idleness.
A Midsummer Night's Dream (2.1)

Walter Crane Shakespeares Garden Midsummer Nights

楡とアイビー


The female ivy so Enrings the barky fingers of the elm.
A Midsummer Night's Dream (4.2)

ご存知のように「夏の夜の夢」といえばロバの頭ですよね!パックの悪戯で、ロバの頭にすげかえられた職人を熱愛する妖精の女王タイターニア。

タイターニアはラブ・イン・アイドルネス(パンジー)の「徒なる恋」の媚薬のため、ロバの頭の彼にありったけの情熱を込めて「楡の木を蔦が蔓で固く抱きしめているわ。」と囁いているのです。

Shakespeares Garden by Walter Crane, With sweet musk roses. 1906

「ムスク・ローズ」(麝香薔薇)


立麝香草が咲く堤を知っている。そこには九輪草とが生い茂り、菫は風にうなずいている。甘い香りの忍冬や、香りの高い麝香薔薇、野茨(エグランタイン)が重なり合った甘美な天蓋の下で、夜のひとときタイターニアは眠るのだ。

I know a bank where the wild thyme blows,
Where oxlips and the nodding violet grows,
Quite over-canopied with luscious woodbine,
With sweet musk-roses and with eglantine:
There sleeps Titania sometime of the night,
Lull'd in these flowers with dances and delight.
A Midsummer Night's Dream (2.1)

妖精の女王タイターニアが、甘美な天蓋の下で眠るとき、フェリックス・メンデルスゾーン(Jakob Ludwig Felix Mendelssohn)は、そのララバイの詩「舌先裂けたまだら蛇」にも曲をつけました。

メンデルスゾーンの演奏会用序曲(作品21)及び劇付随音楽(作品61) はシェイクスピアの「夏の夜の夢」です。劇音楽「真夏の夜の夢」Op. 61 (A Midsummer Night's Dream, Op. 61)は、1.スケルツォ、2.情景と妖精の行進、3.歌と合唱「舌先裂けたまだら蛇」、4.情景(メロドラマ)、5.間奏曲、6.情景(メロドラマ)、7.夜想曲、8.情景(メロドラマ)、9.結婚行進曲、10.情景(メロドラマ)と葬送行進曲、11.ベルガマスク舞曲、12.情景と終曲の12曲の劇付随音楽です。

Flowers from Shakespeares garden

「ムスク・ローズ」(麝香薔薇)と「エグランタイン」(野茨)


舌先裂けたまだら蛇 (You spotted snakes)

You spotted snakes with double tongue,Thorny hedgehogs,be not seen;
Newts and blind-worms,do no wrong,Come not near our fairy queen.

Philomel,with melody Sing in our sweet lullaby;Lulla,lulla,lullaby,lulla,lulla,lullaby:Never harm,Nor spell nor charm,Come our lovely lady nigh;So,good night,with lullaby.

Weaving spiders,come not here;Hence,you long-legg'd spinners,hence!Beetles black,approach not near;Worm nor snail, do no offence.

メンデルスゾーンは最終行に繰り返しを加えています。

Philomel, with melody...

舌先裂けたまだら蛇の最終行は、坪内逍遥の翻訳で妙音鳥(フィロメル)と当て字されています。シェイクスピアのソネット集102番にも登場します。

フィロメルはフランス語で、ナイチンゲール(小夜啼鳥)のこと。オウィディウスの「変身物語」でピロメラ(フィロメラ)が鳥に変えられたお話。ギリシア神話ではナイチンゲール(小夜啼鳥)に変えられたとあります。姉プロクネーの夫トラーキア王テーレウスに陵辱されたピロメーラーは舌を切られ、事の次第をタペストリーに織り込み姉に報せます。プロクネーは復讐のため王との子イテュスを殺し、王の晩餐に差し出します。王は逃亡した二人の姉妹を追いますが、神は3人を鳥に変身させます。テーレウスを戴勝に、プロクネーを燕に、そしてピロメラをナイチンゲール(小夜啼鳥)に。

舌先裂けたまだら蛇
メンデルスゾーンの劇音楽「真夏の夜の夢」Op. 61

舌の裂けた斑の蛇。来れば厄介、針鼠。
イモリや蝙蝠、足なし蜥蜴よ、悪戯をするな。女王さまに近づくな。

妙音鳥よ、美しく歌え子守唄。ララ ララ ララバイ ララ ララ ララバイ
恙よ、呪文よ、魔力よ、触れるな、寄るな、女王様に。

糸巻く蜘蛛よ、遠ざかれ、脚長蜘蛛よ、飛んでいけ。
黄金虫よ、毛蟲よ、蛞蝓よ、悪戯をするな。女王さまに近づくな。



「ワイルドタイム(立麝香草)」と「ウッドバイン(忍冬)」


「シェイクスピアの花園」の中で「夏の夜の夢」のイラストが一番好きです。学生時代にシェイクスピアが英語の副読本だったsaiとaleiが、英文学者の中野好夫さんのお孫さんで、中野春夫さんのテキストが載っている「シェイクスピアハンドブック」を以前に借りたことがあったのですが、中野春夫さん(学習院大学教授)がシェイクスピアの「植物」について書いていました。

引用と要約
パンジーは恋の花で、「夏の夜の夢」でも「徒らな恋」に用いられている。シェイクスピアはこのパンジーにギリシャ神話と処女王エリザベス礼賛に由来する付加価値を与えた。妖精オーベロンいわく、キューピッドはエリザベスに黄金の矢を放ったが、彼女の敬虔と貞節で矢はそれて落ちたところにパンジーが誕生した。ゆえにパンジーはキューピッドの花でその解毒剤が「ダイアナの花」。処女神「ダイアナに模されているエリザベスを対比している。〜なるほど〜

ハムレットでは「パンジー」はフランス語の「パンセ」(思考)から紐解かれますが、作品によって同じ花でもひとひねりしているわけなんですね。

ほかにはこんな台詞も。

そのように情欲を抑え、処女のまま清らかな巡礼をする者は、大いに祝福される。だが、俗世間では人に摘み取られることなく、ただ独りの生い立ち、生きて、枯れ死んでいく薔薇に比べたら、摘み取られて香水の香りを残す薔薇こそ幸せなのだ。

Thrice-blessed they that master so their blood,
To undergo such maiden pilgrimage;
But earthlier happy is the rose distill'd.
Than that which withering on the virgin thorn
Grows, lives and dies in single blessedness
A Midsummer Night's Dream (1.1)

/ 16:38 / 洋書 / - / - /
運命の花ざかり 「冬物語」 パーディタの花くらべ  ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」から

大自然の祝福を人々と分け与える場面。ヒロインのパーディタは毛刈祭の女王となり、花々の名をあげる台詞は有名です。ゆっくりご紹介いたします。

どういたしまして、サー。
ドーカス、牧師様、私はこの花々を差し上げましょう。あなたにはローズマリーとヘンルーダを。長い冬の間も、色も香りも失せることなく愛でることができるでしょう。

You’re welcome, sir.
Give me those flowers there, Dorcas. Reverend sirs,
For you there’s rosemary and rue; these keep
Seeming and savour all the winter long:
The Winter's Tale (4.3)

どこかで聞こえるこのフレーズ。オフィーリアですね!「あなたにはフェンネル(茴香)とコロンバイン(苧環)、あなたにはルー(ヘンルーダー,芸香)。」

記事 シェイクスピアの言葉遊び オフィーリアのヘンルーダー

Flowers from Shakespeares Garden by Walter Crane

冬物物語 「プロセルピナの略奪」 と 「ラッパ水仙」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語 「ホットラヴェンダー」と「ミント」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


Flowers from Shakespeares garden

冬物語 「マジョラム、サボリー」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906

 

violets dim and Or Cythereas breadth

冬物語「ヴァイオレット(菫)」と「キュテレイアの息吹」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語「桜草」と「九輪草」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語 「瓔珞百合」と「百合の種類」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語「アイリス」と「この花々をあなたへ」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906




冬物語「マリーゴールド」と「カーネーション」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


❄カーネーションの花❄
お客さま、今年も随分と過ぎましたが、夏は去ったわけでも冬が訪れたわけでもありません。この季節のいちばん美しい花は、不実の花と呼ばれるカーネーションと自然の私生児とも呼ばれる縞石竹でしょうが、あのような花は私どもの庭には咲いていませんし、私も一茎だってほしいとは思ったことさえございません。

Sir, the year growing ancient,
Not yet on summer's death, nor on the birth
Of trembling winter, the fairest
flowers o' the season
Are our carnations and streak'd gillyvors,
Which some call nature's bastards: of that kind
Our rustic garden's barren; and I care not
To get slips of them.
The Winter's Tale (4.4)

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

❄ラベンダー、ミント、マジョラム、サボリー、マリーゴールドの花❄
この花々をあなたへ。ラベンダー、ミント、マジョラム、サボリーの花。マリーゴールドは太陽と共に眠り太陽と共にしずくをこぼしながら目覚めるのです。夏の盛りの花は人生の盛りを迎えた年代にこそ、ふさわしい花なのです。

(略)
Here's flowers for you;
Hot lavender, mints, savoury, marjoram;
The marigold, that goes to bed wi' the sun
And with him rises weeping: these are flowers
Of middle summer, and I think they are given
To men of middle age.
The Winter's Tale (4.4)

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

❄プロセルピナの花、ラッパ水仙、菫、桜草、九輪草と瓔珞百合、百合の種類、アイリスの花❄
ああ、プロセルピナ。あなたが黄泉の国王ディスの馬車から、恐ろしさのあまりに落としたあの花々がほしいのです。ラッパ水仙、それはツバメもまだ来る前に咲き、その美しさは、三月の風を誘惑するほど。おぼろげな菫はジュノーの瞼より愛らしく、キュテレイアの息吹よりも香しい。淡い桜草は、太陽神ポイボスの力強い抱擁を前に死んでいく。それはよくある乙女の病。九輪草と瓔珞百合。百合の種類の中でもアイリスが一番でしょう。あぁ、それほどの花を揃えて花輪をつくり愛しい人へいくつもかけてあげたいのです。

(略)
O Proserpina,
For the flowers now, that frighted thou let'st fall
From Dis's waggon! daffodils,
That come before the swallow dares, and take
The winds of March with beauty; violets dim,
But sweeter than the lids of Juno's eyes
Or Cytherea's breath; pale primroses
That die unmarried, ere they can behold
Bight Phoebus in his strength--a malady
Most incident to maids; bold oxlips and
The crown imperial; lilies of all kinds,
The flower-de-luce being one! O, these I lack,
To make you garlands of, and my sweet friend,
To strew him o'er and o'er!
The Winter's Tale (4.4)

上田敏「海潮音」(訳詩集)から 〜花くらべ〜 ヰリアム・シェイクスピア(ウィリアム・シェイクスピア)

燕(つばめ)も来(こ)ぬに水仙花、大寒(おほさむ)こさむ三月の風にもめげぬ凜々(りり)しさよ。
またはジュノウのまぶたより、ヴィイナス神(がみ)の息(いき)よりもなほ臈(ろう)たくもありながら、菫(すみれ)の色のおぼつかな。
照る日の神も仰ぎえで嫁(とつ)ぎもせぬに散りはつる
色(いろ)蒼(あを)ざめし桜草(さくらそう)、これも少女(をとめ)の習(ならひ)かや。
それにひきかへ九輪草(くりんそう)、編笠早百合(あみがささゆり)気がつよい。
百合もいろいろあるなかに、鳶尾草(いちはつぐさ)のよけれども、あゝ、今は無し、しよんがいな。

上田敏さんはプロセルピナの花の部分は削除して、ラッパ水仙からの部分から訳詩していますね。

That come before the swallow dares, and take
The winds of March with beauty; violets dim,
But sweeter than the lids of Juno's eyes
Or Cytherea's breath; pale primroses
That die unmarried, ere they can behold
Bight Phoebus in his strength--a malady
Most incident to maids; bold oxlips and
The crown imperial; lilies of all kinds,
The flower-de-luce being one! O, these I lack,
To make you garlands of, and my sweet friend,
To strew him o'er and o'er!

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

❄ダマスクローズ❄
吹き溜まりの雪のように白い芝生
鴉のように黒いキプロス
ダマスクローズのように甘いグローヴ
Lawn as white as driven snow;
Cyprus black as e'er was crow;
Gloves as sweet as damask roses.
The Winter's Tale (4.4)

東方のダマスクローズは赤と白が混在している品種で、チューダー朝にとって薔薇戦争の和解を象徴するものです。

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥

シェイクスピアの名作の中で、特に「冬物語」では、花々を語る台詞が多いのが特徴です。第五幕で、小悪党のオートリカスの台詞にもこんな比喩が用いられています。

Here come those I have done good to against my will, and already appearing in the blossoms of their fortune.
The Winter's Tale (5.2)

奴らが来た。この思惑に反して幸運を施すことになろうとは。まるで運命の花ざかりだ。

/ 16:28 / 洋書 / - / - /
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」 ハムレット

•*¨*•.¸¸♥ •*¨*•.¸¸♥ハムレット

Enter Ophelia, fantastically dressed with straws and flowers
麦わらと花の幻想的なドレスのオフィーリアの登場

1888年のチャイコフスキー作曲の幻想序曲「ハムレット」 Op. 67 (Hamlet, Op. 67) にもあります「第四幕第五場麦わらと花の幻想的なドレスのオフィーリアの再登場」(Deuxieme scene d'Ophelie: Re-enter Ophelia, fantastically dressed with straws and flowers)は13番目の曲目。1891年に「ハムレット」の付随音楽(作品67b)も作曲していますね。

ウォルター・クレインは「Enter Ophelia」としているので、歌を歌いながら登場する最初のシーンでしょうか。

チャイコフスキーは再登場となっているので、兄レアティーズと王が話しをしているときに登場し、花々を渡す場面になります。

邦訳の中では「狂乱のオフィーリア登場」、「オフィーリア登場」と書き記されています。

Shakespeares Garden by Walter Crane

ハムレット 第四幕第五場
「麦わらと花の幻想的なドレスのオフィーリア登場」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


第一幕第三場のオフィーリアの兄、レアティーズの台詞に早々と菫の言葉が登場します。皆さまがすでにご存知のウォルター・クレインの「シェイクスピアの花園」では、シェイクスピアの物語に登場する花々の台詞にあわせた挿絵集。

物語別にウォルター・クレインの挿絵と台詞、そしてこのシェイクスピアのための音楽をご用意しております。

「人生の春に開いた菫の花。早咲きだが長続きしない。美しい花がすぐ萎む。つかの間の慰めと香り。それだけのことだ。」

全文はこちら 記事 シェイクスピア「ハムレット」から 愛しのオフィーリア

A violet in the youth of primy nature,
Forward, not permanent, sweet, not lasting,
The perfume and suppliance of a minute.
Hamlet (1.3)

Theres rosemary, thats for remembrance; pray,love, remember: and there is pansies. that's for thoughts.

ハムレット 「ローズマリー」と「パンジー」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


「これはローズマリー、花言葉は記憶、覚えていてね。これは三色菫 花言葉は思い。」

狂気のオフィーリアの歌の合間の台詞。

There's rosemary, that's for remembrance; pray,
love, remember: and there is pansies. that's for thoughts.
Hamlet (4.5)

記事 五月の薔薇に髑髏とロビン ミレイのオフィーリアから Millais's Ophelia



ハムレット フェンネル(茴香)とコロンバイン(苧環)
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906

 



ハムレット「ルー(ヘンルーダー,芸香)」と「デイジー(雛菊)」
ウォルター・クレイン 「シェイクスピアの花園」  1906


There's fennel for you, and columbines: there's rue
for you; and here's some for me: we may call it
herb-grace o' Sundays: O you must wear your rue with
a difference. There's a daisy: I would give you
some violets, but they withered all when my father
died: they say he made a good end,--
Hamlet (4.5)


ハムレットの母 王妃ガートルードの言葉です。全文と翻訳はこちら。
記事 オフィーリア  Ophelia

There is a willow grows aslant a brook,
That shows his hoar leaves in the glassy stream;
There with fantastic garlands did she come
Of crow-flowers, nettles, daisies, and long purples
That liberal shepherds give a grosser name,
But our cold maids do dead men's fingers call them:
There, on the pendent boughs her coronet weeds
Clambering to hang, an envious sliver broke;
When down her weedy trophies and herself
Fell in the weeping brook.
Hamlet (4.7)

レアティーズ
墓に埋めよ。その美しき汚れなきからだより、菫の花よ咲きいでよ。いいか!慈愛の天使となるとき、おまえは地獄に堕ちて喚くがいい!

全文と翻訳はこちら。
記事 シェイクスピアの言葉遊び オフィーリアのヘンルーダー

Lay her i' the earth:
And from her fair and unpolluted flesh
May violets spring! I tell thee, churlish priest,
A ministering angel shall my sister be,
When thou liest howling.
HAMLET:
What, the fair Ophelia!
QUEEN GERTRUDE.
Sweets to the sweet. Farewell! (scatters flowers)
I hoped thou shouldst have been my Hamlet’s wife.
I thought thy bride-bed to have decked, sweet maid,
And not have strewed thy grave.
Hamlet (5.1)

ハムレットのfairと王妃のFarewell の言葉遊びと、ヘンルーダーに隠された言葉遊びの記事はこちらから。

記事 シェイクスピアの言葉遊び オフィーリアのヘンルーダー


/ 16:10 / 洋書 / - / - /
ジェーン・エリザベス・ジロー(Jane Elizabeth Giraud)のボタニカル ミルトンの花

ジェーン・エリザベス・ジロー(Jane Elizabeth Giraud)の「シェークスピアの花」(The Flowers of Shakespeare)と同じ1846年の出版。

記事 オフィーリアの花 ジェーン・エリザベス・ジロー(Jane Elizabeth Giraud)

ジェーン・エリザベス・ジローは、「失楽園」、「復楽園」、「ミルトン詩集」の3つのシリーズに登場する花々を手彩色のリトグラフに仕上げました。

The flowers of Milton

ミルトンの花 「ムスクローズ」、「失楽園」


The flowers of Milton

失楽園 「月桂樹と銀梅花」、「スミレ、クロッカス、ヒヤシンス」


The flowers of Milton

失楽園 「シトロン、ミルラ、葦」、「スイカズラ、アイビー、バラ、銀梅花」


The flowers of Milton

失楽園 「バラ、銀梅花、サルスベリ、茎」


The flowers of Milton

失楽園 「三色菫、すみれ、アスフォデル、ヒヤシンス」、「コゴメグサ、ルー」


Paradise Regained. The flowers of Milton

復楽園 「復楽園」、「オークと杉、どんぐり」


Paradise Regained. The flowers of Milton

復楽園 「ジュニパー」、「松とオーク」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトンの花 「ミルトン詩集」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトン詩集 「スミレとバラ」、「野薔薇、エグランティーヌ、蔓」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトン詩集 「ニレとサンザシ」、「雛菊」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトン詩集 「バーン、あざみ、ニレ」、「糸杉」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトン詩集 「ミチヤナギ、アイビー、スイカズラ」、「パンジー、ピンクス、水仙」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトン詩集 「ヤナギ、コリヤナギ、カウスリップ」、「ミルラ、シナモン」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトン詩集 「ヒヤシンスとバラ」、「月桂樹、銀梅花とアイビー」


Poems on several  The flowers of Milton

ミルトン詩集 「ワイルドタイム、蔓、ヤナギ、ハシバミ」
「桜草、パンジー、スミレ、ホワイトピンク、ジャスミン」

 

コメント:ジェーン・エリザベス・ジロー(Jane Elizabeth Giraud)は、ミルトンの失楽園の花をボタニカル・アートで「ミルトンの花々」を出版しました。

/ 19:35 / 洋書 / - / - /
ノーサンガー僧院 ヴェラ・ナザリアンのコラボ本とアンナ&エレナ・バルブッソの挿絵本

Northanger Abbey and Angels and Dragons Jane Austen ,Vera Nazarian

ジェーン・オースティン の「ノーサンガー僧院」と天使と竜たち
ヴェラ・ナザリアン著 出版


ノーサンガー僧院(ノーサンガー・アベイ)のヒロインキャサリン・モーランド。上流社会の社交界と中流家庭のヒロイン。愛読書と現実の区別がつかない17歳の少女。反ゴシックとして英国女流作家ジェーン・オースティンは相変わらず皮肉って喜劇的に書かれた小説です。

キャサリンは、ヘンリーの家ノーサンガー僧院に招待され、さまざまな空想をふくらませ大混乱。結局ヘンリーと結婚することにはなりますが、無知で誠実な少女の教訓の物語。


The Violinist by Sir Edward John Poynter, 1st Baronet, KBヴェラ・ナザリアンの「ノーサンガー僧院と天使と竜たち」の表紙はジェーン・オースティンの時代のあと、19世紀のサー・エドワード・ジョン・ポインターによる「ヴァイオリスト」が表紙中央におさまっています。

マクドナルド姉妹はエドワード・バーン=ジョーンズ、アルフレッド・ボールドウィン、ジョン・キプリング、そしてエドワード・ポインターに嫁ぎます。もしかするとエドワード・ポインターの妻アグネスでしょうか。

右上の作品は、エドワード・バーン=ジョーンズによる「フラジオレットを吹く天使」ですね。右下はアボット・セイヤーの「天使」です。左の中央はロレンツォ・ロットの受胎告知の「天使」


「ノーサンガー僧院」はTVや映画にもなるほどの人気のある18-19世紀の小説です。各国の出版社から発表されています。面白いのはジェーン・オースティンのこの世紀末の時代の小説と現代のヴェラ・ナザリアンが、この小説とコラボした「ノーサンガー僧院と天使と竜たち」です。

これほどジェーン・オースティンの「ノーサンガー僧院」は英国やヨーロッパでは読み物として評判を呼んでいるんですね。




Northanger Abbey by Jane Austen Black Cat Publishing 2010 Anna and Elena Balbusso

アンナ&エレナ・バルブッソの挿絵 「ノーサンガー僧院」


最近では姉妹アンナ&エレナ・バルブッソの挿絵の「ノーサンガー僧院」が出版されました。 絵本なので読みやすいです。

ノーサンガー僧院(ノーサンガー・アベイ)の登場人物たちは兄ジェイムズ、恋人のヘンリー・ティルニー、兄フレデリック・ティルニー、妹エレノア・ティルニー、父ティルニー将軍、ソープ兄妹などが入り乱れます。

ソープ兄妹のイザベラは裕福な財産を相続できる結婚相手を探します。それはキャサリンに幻滅を感じさせますが、当時の花嫁は、「婚資」(日本でいう結納金)が必要で、イザベラは二股をかけて結婚相手を探します。

相続財産の少ない男子は軍人、牧師、役人などになるところからみると、ティルニー家の資産の格は低かったでしょう。

Northanger Abbey by Jane Austen Black Cat Publishing 2010 Anna and Elena Balbusso

アンナ&エレナ・バルブッソの挿絵 「ノーサンガー僧院」


アンナ&エレナ・バルブッソは登場人物の肖像を挿絵にしています。当時の女性の生き方=結婚の図式のような系図に仕上げているところが面白いです。

ジェーン・オースティンといえば、「エマ」、「高慢と偏見」、「分別と多感」が上げられますが、自立した女性ではなく、やはり結婚で養ってくれる相手を探すのです。

現代では「セックス・アンド・ザ・シティ」のように、自立、結婚など女性のライフスタイル(仕事や恋、ファッション、そしてセックス)を描いていますが、ジェーン・オースティンの時代には成立しない社会背景です。

未亡人、独身女性は「肩身の狭い客人」として扱われます。

Northanger Abbey by Jane Austen Black Cat Publishing 2010 Anna and Elena Balbusso

アンナ&エレナ・バルブッソ 表紙 「ノーサンガー僧院」


アンナ&エレナ・バルブッソの表紙はゴシック小説を手にしているキャサリン。アン・ラドクリフの「ユードルフォの秘密」(The Mysteries of Udolpho)です。

アンナ&エレナ・バルブッソの挿絵本
□記事 トリスタンとイゾルデ 挿絵 アンナ&エレナ・バルブッソ
□記事  アンナ&エレナ・バルブッソの挿絵 オフィーリアの死

恋人と引き離されユードルフォ城に監禁されたエミリーの物語で、エミリーはそのカラクリ屋敷の怪奇現象に脅かされるのですが、キャサリンもノーサンガー僧院はユードルフォ城のような秘密めいた僧院という妄想に取り付かれます。

世間知らずというか、無知なキャサリン。

でも最近になって、オージアス・ハンフリーの描いた「ジェーン・オースティンの肖像」とされた作品をみると、このキャサリンと若い頃のジェーン・オースティンがオーバーラップされるのです。




artist Ozias Humphry Catherine Morland? Jane Austen?

オージアス・ハンフリー
ジェーン・オースティンの肖像


彼女の小説の映画やドラマのほかに、彼女自身が映画化された「ジェイン・オースティン 秘密の恋」では、評伝「ビカミング・ジェイン・オースティン」から生涯独身でとおしたジェイン・オースティンの恋にフォーカスされた物語。

財産や家柄ではなく愛こそが結婚というジェイン・オースティンとヒロインキャサリンは重ねあわすことができます。キャサリンは「どちらか一方に十分な財産があればもう一方には必要ない」というところの愛こそが結婚。悪女イザベラだと「本当に愛し合っていれば、貧しさそのものが豊かさになるわ。」といったところ。

貧しいけれども知的で洗練されたトム・ルフロイと博学なヘンリーの知性の高さはいっしょ。そして?

キャサリンとヘンリーは「ノーサンガー僧院(ノーサンガー・アビー)」で結婚しますが、「ジェイン・オースティン 秘密の恋」ではジェイン・オースティンとトム・ルフロイは、結婚することはありませんでした。



ジェーンの姉妹、カサンドラ・オースティンによるジェーンの肖像画は多く残されています。小説の表紙にも使われています。

Portrait of niece Fanny Austen Knight drawn by Cassandra Austen

ファニー・オースティン・ナイト
画 カサンドラ・オースティン


若い頃のジェーン・オースティンの肖像とも言われているようですが、姪のファニー・オースティンのようです。

Cassandra Austen

後姿のジェーン・オースティン
画 カサンドラ・オースティン




ジェーンはサミュエル・リチャードソンの「サー・チャールズ・グランディソン」がお気に入りで、暗記できるまで読んだといわれていますが、暗記ってできるものなのでしょうか?ボッティチェッリもダンテの神曲を暗記していたと言われていますが。

書簡体形式の「エリナとメアリアン」(1795年)は、サミュエル・リチャードソンを倣っていますね。この「サー・チャールズ・グランディソン」に登場するシャーロットが、「高慢と偏見」のエリザベス・ベネットのモデルとなったようです。

Samuel Richardson by Susanna Duncombe (née Highmore) National Portrait Gallery, London

サミュエル・リチャードソンの朗読会
スザンナ・ハイモア  ロンドン・ナショナル・ギャラリー


「ノーサンガー・アベイ」を含めて、登場人物は本が大好き。母親の愛読書に「サー・チャールズ・グランディソン」、そしてキャサリンも「ヒロインが読まなければならない本はすべて読んだ」とされています。

イザベラによって、ゴシック小説「ユードルフォルの謎」(アン・ラドクリフ)を読み始め、「イタリアの惨劇」(アン・ラドクリフ)も。「ヴェルフェンバッハの城」(1793、エリザ・パーソンズ)、「クレアモント」(1798、レジーナ・マリア・ロッチェ)、「不思議な警告」(1795、エリザ・パーソンズ)、「黒い森の魔術師」(1794、カール・フレデリック)、「真夜中の鐘」(1798、フランシス・ラゾム)、「ライン河の孤児」(1798、スリース夫人)、「恐るべき謎」(1796、カール・グロッセ)が、「ノーサンガー・アベイ」に登場するゴシック小説です。




Ann Radcliffe

ゴシック小説の大家
ラドクリフ夫人(アン・ラドクリフ)ではないかと


「人間らしい感情も悔恨の情もなく、悪業のかぎりを尽くし極悪非道の生涯を終えた人間たち」というのがオースティンの考えるゴシック小説で、小説の中でヘンリーが代弁しているのです。キャサリンは「ラドクリフ夫人の小説はすごく面白いけれど、ああいう小説には、人間性の忠実な描写を期待してはいけないのだ。」と思い知るのですが。

画像はラドクリフ夫人(アン・ラドクリフ)ではないかといわれる肖像画ですが、お顔はwikiにあるアン・ラドクリフの肖像と似ています。彼女もオースティン同様に6冊出版されています。オースティンとは違い既婚で、夫は作家でジャーナリスト。

ウォルター・スコット、ジョン・キーツに賞賛され、影響を及ぼした作家にはエドガー・アラン・ポーがいます。彼女の描く小説の世界の景色は画家サルヴァトール・ローザとクロード・ロランの絵画の景色を思い起こすロマンティックな描写でも有名です。

「イタリアの惨劇」は、マルキ・ド・サドの鑑賞に叶ったようです。イタリアでの異端審問と迫害のほか、フランス革命、宗教、貴族社会、国籍などの一般的な問題を扱った作品でもあるようですが、「惨劇」とあるだけに過激な作品らしいですが幸せな結末。真夜中に歩き回る幽霊など、シェークスピアの「ハムレット」を思い出します。

彼女の散文詩のような崇高で芸術的な文章は、オースティンが「人物描写を期待してはいけない」としていますが、ラドクリフ夫人に続くサド、キーツ、シェリー、ゲーテ、ホフマン、エミリー・ブロンテなどゴシック小説の系譜には文豪もいます。

「人物描写」は娯楽小説や風俗小説にこそふさわしく、ファンタジーやゴシック小説には必要がないともいえます。




William Gilpin: Picturesque Tours,Gilpin, Observations on the River Wye, 1770,Gilpin on the Wye, Forest Scenery

ウイリアム・ギルピンの水彩
「ワイ川紀行」(1770)から 森林風景


キャサリンの愛するヘンリーが「ピクチュアレスの美学」の概念を読んでいるのはウイリアム・ギルピンの「ピクチャレスク旅行記」の影響。ピクチュアレスは、マリー・アントワネットも「プチ・トリアノン」に取り入れた、人工の自然「ピトレスク趣味」に発展します。

1765年にトーマス・グレイが「かくなる恐怖にかくなる美がいかに結合するか」という概念を説いたところから、ホレス・ウォルポールが「ゴシック小説」と名づけられたのです。

この「ノーサンガー僧院」は「ゴシック小説」のパロディで揶揄ですが、「ピクチュアレス」に対して、「分別と多感」では、ピトレスク趣味を、エドワードは否定しています。ヘンリーもエドワードもヒロインの愛する人。

一人は「ピクチュアレスの美学」を、一人は「ピトレスク趣味」を否定とするのは、ゴシック小説の由来をオースティンは否定しているんでしょうか。




Frances dArblay (Fanny Burney)by Edward Francisco Burney National Portrait Gallery, London

女流作家 フランシス・バーニー(ファニー・バーニー)
親族エドワード・フランシス・バーニーによる肖像画


オースティンの肖像画も親族(姉カサンドラ)による肖像画が残っていますが、ファニー・バーニーの美しさが描かれている作品は、親族の腕前もご披露していますね。

ノーサンガー僧院の第5章では、ファニー・バーニーの著作本のタイトルが登場します。

 "And what are you reading, Miss — ?" "Oh! It is only a novel!" replies the young lady, while she lays down her book with affected indifference, or momentary shame. "It is only Cecilia, or Camilla, or Belinda"
 
「何を読んでいるのですか?」
「あぁ、ただの小説。」と言って恥ずかしそうに本を閉じた。「セシリアだったかカミラだったか、ベリンダだったかしら。」

「セシリアまたは女相続人の回顧録」は1782年に公開されました。

Yet this, however, remember, if to pride and prejudice you owe your miseries, so wonderfully is good and evil balanced, that to pride and prejudice you will also owe their termination

意訳
しかしこれは思えば、高慢と偏見の結果です。あなたが苦難を借りたおかげで終わることができ、感謝します。高慢と偏見を見事に善と悪との秤にかけたのです。

(高慢と偏見の苦難を借りることも、高慢と偏見の素晴らしさを借りることもできたのです。善と悪とのつり合いを取ることで終止符を打ったのです。)

ファニー・バーニーの「セシリア」(Cecilia)の最終章でドクター・リスターが、セシリアに向って言うのですが、ジェーン・オースティンはこの高慢と偏見を小説タイトルにしたのですね。

最終章では「忍耐、忍耐なの、サー?」というセシリア。この忍耐というのは、ジェーン・オースティンは「分別と多感」で、エリナーの性質に特色を与えました。

ジョージ3世の妃シャーロットの第二女官も努めたファニー・バーニーです。英作家で評論家、シェイクスピアの研究でも知られるサミュエル・ジョンソン(Samuel Johnson)とも親友です。

当時のジョージア王朝時代では評価が高い女流作家で、妹のサラ・バーニーも作家です。哲学者で政治家のエドマンド・バーク(Edmund Burke)、そして親友とした先にご紹介した英国でも偉大とされる評論家のミュエル・ジョンソンに好評価のファニー・バーニーは、意外にも小泉八雲(ラフカデイオ・ハーン)の評価は低く、ラフカデイオ・ハーンはジェーン・オースティンを高く評価しています。




Maria Edgeworth

マライア・エッジワース


ピーター・ラビットのビアトリクス・ポターも愛読していたロイヤル・アイリッシュ・アカデミー名誉会員のマリア・エッジワースは、スコット、ツルゲーネフにも影響を与えました。小説、児童文学を書きました。

反ユダヤ主義の発言をしたことで、1817年に書かれた「ハリントン」はユダヤ人社会への謝罪です。

オースティンのノーサンガー僧院で、ファニー・バーニーの著作本とともに、若い女性の曖昧な返答にあるベリンダ。

「あぁ、ただの小説。」と言って恥ずかしそうに本を閉じた。「セシリアだったかカミラだったか、ベリンダだったかしら。」

ベリンダこそ、マライア・エッジワースの小説で、出版3作目にあたり1801年の小説です。愛と結婚、理性と感情、自制と自由がテーマのようですが、削除されたのは英国女性とアフリカの使用人の異人種間結婚のセクション。まるで「分別と多感」のテーマのよう。

記事 分別と多感 ダッシュウッド姉妹とサドのJJ姉妹
記事 Dear, dear Norland マリアンの嘆き 「分別と多感」第5章 皮肉な人

父親は作家で発明家でもあった政治家リチャード・ラベル・エッジワースです。マライア以外にも著名な子孫を残しています。

父との共著に「実践的l教育」(1835)があり、ジャン・ジャック・ルソーの教育論とジョン・ロックの人間論を取り入れていますが、ジェーン・オースティンもジョン・ロックの思想を取り入れているという見方もあります。

記事 ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」出版200周年

ジェーン・オースティンは「あぁ、ただの小説。」と言って恥ずかしそうに本を閉じた若い女性の返答を「小説ほどひどい悪口をいわれたものはない」として、作中で抗議をする場面も有名です。

「小説とは偉大な知性が示された作品云々・・・」と続きますが、先のゴシック小説がその地位を下げたのだとオースティンはノーサンガー僧院で語りますが、こうした公言は、ファニー・バーニーの「エヴェリーナ」の男性作家と女性作家の差別、マライア・エッジワースの「ベリンダ」での小説ではなく道徳物語だという位置づけを同様にもちいた手法です。

ここが面白いのは、読者が「あら、もしかしてエヴェリーナ?」というひらめきを期待した謎々なのでは。マライア・エッジワースの「セシリア」を引き出しにしてジェーン・オースティンのこの謎々は、ファニー・バーニーの「エヴェリーナ」、マライア・エッジワースの「ベリンダ」という答えを期待していたのではないでしょうか。


 

J.M. Dent 1898 editions of Austens novels illustrated by C.E. and H.M. Brock

ジェーン・オースティン全集 1898 英国デント社出版
ノーサンガー僧院 イラスト C.E. ブロック




追記 2013.4 英国ロイヤルメールから、ジェーン・オースティンの記念切手が、「高慢と偏見」出版200年にちなんでで発売されました。その中の1枚が「ノーサンガー僧院」のキャサリン。

Jane Austen, Northanger Abbey ,  Queensway Press

右 2013年2月発売 ジェーン・オースティンの記念切手
左 ノーサンガー僧院 1935年 クイーンズウェイ出版


ジェーン・オースティンの記念切手、1935年出版の「ノーサンガー僧院」の表紙に似ていませんか?

記事 英国ロイヤルメール ジェーン・オースティンの記念切手
記事 アンジェラ・バレットのイラスト ジェーン・オースティンの記念切手
記事 ジェーン・オースティン 「高慢と偏見」出版200周年


コメント:著者ヴェラ・ナザリアンは、ジェーン・オースティンのパロディー「マンス フィールド公園とミイラ」(邦題)の出版の翌年に、この「ノーサンガー僧院」とのコラボ小説を発表しました。才能というよりもセンス抜群?

コメント:アンナ&エレナ・バルブッソの挿絵本「ノーサンガー僧院」(ジェーン・オースティン)をご紹介したかったのですが、残念ながらamazonジャパンではなかったので、ディケンズ「クリスマス・キャロル」のアンナ&エレナ・バルブッソの挿絵本をご覧ください。

Jane Austen
Penguin Classics
コメント:財産や家柄ではなく愛こそが結婚というジェイン・オースティンとヒロインキャサリンは重ねあわすことができます。

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